ファショコン通信

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デザイナー

「デザイナー」の意味について

「デザイナーについて教えてください」、「デザイナーのお仕事ってどこまでですか?」等、ファッション関係のサイトを運営していると、このような類の質問を少なからず受ける。そしてその度に、必ずといっていいほど返答に窮するのである。これは一体、何故であろうか。察するに、「デザイナー」という職業(といって良いのかどうかはまた別問題として)自体、そもそも曖昧で、実体が有って無きに等しいものだからなのであろう。

しかし、だからといって、「デザイナーなんて職業はありませんよ」等と答えてみたところで、何の解決にもなっていないのもまた事実である。もしかしたら、中には「デザイナー」というものを明らかにすることに関して、切実な利害関係を有している者もいるかもしれない。そういう人を無下に突き返すのも忍びないと感じないではない。

そこで、以下において、可能な限り、「デザイナー」というものはどのようなものなのかということを、明らかにしていきたいと思う。

デザイナー」とはもともと、「図案家、設計者、立案者、陰謀者」を意味する。いわゆるデザインの専門家のことで、一般にはアパレル業界だけでなく、アクセサリーやインテリア、グラフィックデザイン等々の専門家も含まれる。
アパレル業界のデザイナーは主に「ファッション・デザイナー」と呼ばれ、大別してシグネチャ・ブランドをもつ コレクションデザイナー、企業内デザイナー、フリー・デザイナー等々に分かれる。また、企業内デザイナー等をその職責に応じてチーフ・デザイナー、アシスタント・デザイナー等に分けることもある。

以上が用語上の説明であるが、これだけでは何も明らかにはなっていないであろう。ただ言葉を羅列しただけだからである。思うに、デザイナーに限らず、およそあらゆる職業の内容を明らかにするにあたって、その業種の行う仕事内容を明らかにしなくては、その職業を本質的に理解することは著しく困難であろう。

そこでまず、以下で、デザイナーという職業の行う仕事内容について明らかにしていきたいと思う。

「デザイン」とは

いわゆる「デザイン」は、主として以下のような流れで行われる。
但し、あくまでも一般論であるということに注意されたい。

デザインの工程

  1. デザイン画作成
  2. パタンナー指示
  3. トワルチェック
  4. 縫製仕様書の作成

以下、上表の流れを追ってデザインの工程を概観する。

  1. デザイン画作成
    デザイン画を描く、ということは、いうまでもなく、自分が創りたい服を二次元で表現することである。服は三次元製品であるので、デザイン画で二次元で表現しても足りない要素は、注釈等を文字で付け加える。これは、自分の考えをヴィジュアルとして具現化し、第三者に理解させる手段である。
    よって、デザイン画を描くにあたっては、全体のイメージを捉え易いようにすることと、服の特徴ディテール(「詳細」の意)を強く表現することが重要である。

    まず、拡大絵型デザイン画を描く前に、そのエッセンス(デザインのラフの意)をメモ程度に描き出す。次に、それを元に絵型を描く。絵型はイメージイラストに近い性質があり、イメージを浮かびやすくするためのものである。通常、ほとんど色付けはせず、トーン、即ち濃さで色を表現する。例えば、薄くグレーにした場合、モノトーン系の色使いを表したり、黒く塗りつぶした場合、反対色や別生地などを表したりする。そして、前述の如く三次元化するための説明キャプションは、絵型内に自由に線をひいて、他人がわかるようにメモ程度に書けばよい。

  2. パタンナー指示
    デザイン画をもとに原型( スローパー )等を使用しながら パターン を作成する専門職である パタンナー に、型紙を作る際の注意点等を デザイナー が指示をする。パターン は完成イメージをもとに服を作る設計図のようなものであり、それ作成する際の パタンナー への指示は、デザイン工程においてそれなりに重要な要素を占めている。

    パタンナー への指示は、デザイン画を元に、自分の完成イメージを パタンナー に説明する、という方法で行われる。また、 デザイナーパターン そのものをチェックすることもあるし、場合によっては、工場での裁断や縫製の方法に合わせて縫い代や合い印等をつけた型紙(工業用 パターン )を デザイナー 自身が作成する場合もある。つまり、 デザイナー 自身が パタンナー を兼ねる場合もあるのである。

    尚、現在ではコンピュータ・グラフィックス(CG)やCAD・CAM等によるパターンメーキングが浸透している。

  3. トワルチェック

    トワル(「トワール」ともいう)とは、粗い未晒生地を意味する。ドレーピング(立体裁断)や仮縫いのとき、トワルを人体やボディー(人台。胴部だけのものは「トルソー」と呼ばれる【右図参照】)にあてて形を作り、それをもとに型紙を作成することが多いようだ。

    トワルチェックにおいては、主に片身のサンプルを用いる【左図参照】。そして、人体半身のトワルを見て服の完成形を想像し、不具合があればそれを パタンナー に指示するのが、いわゆるトワルチェックである。すなわち、ポケットの位置の調整やボタンの間隔の調整等、デザイン画や自分のイメージと実物とのバランスを図り、ギャップを埋め修正をするなどして、その完成度を高める作業である。
      よって、当然のことながらデザイン工程における重要度は非常に高い。

      トワルチェックの手法は様々であるが、通常、デザイナーとパタンナーがあれこれ相談しながら完成度を高めていく、といった方法になることが多いようである。

      ちなみに、パタンナーが作成するパターンは原則として1サイズのみであり、サイズ展開(グレイディング)はグレイダーが行う。

  4. 縫製仕様書の作成
    縫製仕様書とは、生産に際しての作り方を指示する書類のことである。縫製だけでなく、裁断や副資材、仕上プレス等についての指示も行われるので、製品仕様書、商品仕様書ともいう。主要部位の寸法や注意事項を書き込んだ製品図、 パターン の縮尺図、各部位の詳細な寸法、裁断法の制定、副資材の指定(芯地、裏地、ボタン、ファスナー、縫い糸等)、 シーム ・ピッチの指定、仕上プレスの指定等、記入内容は多岐に渡る。縫製仕様書の記入は パタンナー の仕事とされているようである。主に3枚複写になっており、通常、工場と生産と営業へそれぞれ配られる。

    以上のような工程でいわゆるデザインが行われるわけであるが、デザイン画を描いた時点の完成想像と現物の差が少なければ少ないほどデザイナーのレベルが高い、という関係にあるようである。その上、出来上がった商品がすばらしいとなお上級であるようだ。

結論にかえて

以上のような工程がいわゆるデザインの典型であるが、必ずしも全てのデザイナーが上記の工程を1人で行っているわけではない。デザイナーの所属するメゾンや企業の方針に合わせて、その仕事内容も千差万別である。トワルチェックまでやることもあれば、デザインのみのこともあるようだ。

例えば、山本耀司(Yohji YAMAMOTO)を例にとれば、彼はまず自分のイメージをパタンナーに告げ、それに基づいてできあがったものに、またあれこれ注文をつけて修正をさせ、全体を構成していくという手法を取るようだ。その指示は抽象的であることが多く、ゆえにパタンナーの創造力や力量が問われることとなる。また、グッチ(GUCCI)トム・フォードも「クリエイティヴ・ディレクター」(本稿執筆時)と称されており、個々のアイテムについて自らデザインを行うというよりも、大まかな方向性やコンセプトを創造し、サンプル等に個別に注文を付ける、という手法をとっているようだ。

ともあれ、ショーの最後に誇らしげにランウェイに出てきて来場者に拍手喝采を浴びるのは、どういった仕事内容であれ、「デザイナー」と銘打たれている者であることは厳然たる事実である。そして、目下世界中に星の数ほど存在するであろうデザイナーの「卵」達が羨望の対象としているのは、幾多の名デザイナー達がその偉業の対価として受けてきたのと同じような割れんばかりの歓喜に満ちた拍手喝采である、ということもまた、疑いようのない事実なのである。

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  そして、そうした拍手喝采を実際に浴びることができるのは、実はほんの一握りである、ということもまた、悲しいかな「悲哀」に満ち満ちた「現実」なのであろう。

資料提供

未来産業提案研究所