ファショコン通信

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SATORU TANAKA 2006 S/S コレクションレポート

取材に至るまでの経緯

2005年11月3日、東京・明治神宮外苑にて、サトルタナカ(SATORU TANAKA)の 2006 S/S ショーが催された。このショーは、東京コレクション(日本ファッションウィーク)期間中に行われたものである。
今回は、日本ファッションウィークと銘打って、東京コレクションが新しくなる記念すべきシーズンであるということで、以前から気になっていた、サトルタナカのショーに足を運んでみることにした。そして、ショーを観た後にレポート記事も作成したいと考えていたので、サトルタナカの公式サイトでプレスの連絡先を調べて、事前に取材の申入れをして、招待状を送付していただいた。ショー本番の数日前という切迫した時期にも関わらず、プレスの方には非常に親切にしていただいたのが印象的であった。
会場は聖徳記念絵画館前の大型特設テント「TOKIWA」であり、19:00 からの開催が予定されていた。筆者は今回、プレスとしてショーに招待されていたので、開演 30分前に会場に着き、すぐに会場内に入ることができた。
会場に入ると、他のショーとは異なり、キャットウォークの上方に大小のシャンデリアが計 3つ設置してあることに気が付く。また、これも他のショーとは異なり、会場内がかなり暗い。後で聞いたところによると、今回は参加ブランドが共通の会場を使用するので、その空間の中でもサトルタナカらしさを演出すべく、アンティークのシャンデリアを設置し、照明と共にサトルタナカのエレガンスを感じられるような会場演出にしたそうだ。制約を設けられた中で、如何にしてオリジナリティを出すか、という工夫を凝らしているところが特徴的である。
結局、予定より20分ほど遅れてのショー開始となったが、もう慣れているのでそれほど気にならなかった。始めに頭上のシャンデリアがさらに上方へと動き出し、上がりきったところでショー音楽が大音量で鳴り響き、ショーが始まった。

ショーの様子

アイテムの様子
今回のショーのテーマは、「今と今日のためだけに」。毎シーズン、ミュージシャンがアルバムをリリースするような感覚でテーマを掲げてコレクション発表を行っており、テーマの内容については、言葉の響きとショー内容から自由に感じ取ってほしい、とのことで、敢えて詳細なテーマの説明は控えているのだそうだ。
また、今回のショーでは、ロックフォトグラファーの久保憲司氏とコラボレートしたアイテムもいくつか発表された。久保憲司氏とデザイナーの田中了氏は、友人を介して知り合い、意気投合し、今回のコラボレートに至ったのだそうだ。2人が出会う前にも、音楽は田中氏の人生に大きな影響を与えてきたものであり、久保氏の写真集は好きな写真集の 1つとして所持していたそうだ。すなわち、服に対する拘りだけでなく、全体の世界観を総括した形で物作りに取り組んでいる田中氏は、コレクションミュージックもデビューの時から全てオリジナルで制作し続けており、音楽と密に過ごしてきた田中氏が発信するファッションを大言するのに、とても自然な形で実現することになったのが、今回のコラボレートなのだそうだ。
右写真の Tシャツにプリントされているのは、米国音楽別冊「WRONG OR RIGHT, IT’S ALRIGHT」という写真集の中の「nevermind」(1991)という写真。この写真を選んだ理由はシンプルにいい写真だったからなのだそうだ。
尚、これに合わせているパンツは、ヘリンボーンのスリムパンツ。ブレスレットは、アナーキーマーク「A」をスワロフスキーで象ったデザインで、RUTHというブランドとのコラボアイテムである。
(アイテムの様子は右の写真の通り。画像をクリックすると拡大写真を表示します。)
アイテムの様子
ショーではメンズだけでなく、レディースのアイテムも登場。
左写真では、純銀を糸として織り込んだシルバーの生地を用いて作られたシルバーブルゾンに、毛玉加工を施したシルク生地と竹の素材を用いて作られたプリーツスカートを合わせている。ホワイトとシルバーのラムレザーバックとメタリックグリーンのスタッズミュールがアクセントとなっており、ロック調の中にもエレガントな雰囲気が感じられるものとなっている。
この他にも、パターンに遊びを入れて体のシルエットが美しくなるようにデザインされたコットン50%・レーヨン50%のフェミニンなレッドのサテンワンピースに、ステンレス30%・コットン70%の混紡素材のブラックのボレロを羽織らせ、ブラックの大玉パールネックレスをアクセントにしたものもあった。
メンズのロックテイストを継承しつつも、全体的によりエレガントでフェミニンなデザイン及びシルエットが印象的であった。
(アイテムの様子は左の写真の通り。画像をクリックすると拡大写真を表示します。)
アイテムの様子
また、右写真のように、上質のオフホワイトのコットンサテンジャケットのセットアップに、今シーズンのテーマカラーであるベージュのコットン100%のシャーリングカットソーと、今回のショーの差し色となったグリーンのレザースニーカーと大玉パールネックレスを合わせ、シックなスタイルの中に遊びを入れたスタイルも提案されていた。尚、レザースニーカーは他にホワイトもあるそうだ。
この他にも、サトルタナカの定番アイテムともなっている、ブラックのサテンジャケットのセットアップに、ストライプメッシュのカットソーと、アナーキーマーク「A」をスワロフスキーで象ったリザードに昨シーズンの流れからさらに進化したパールが付いたアナーキーパールベルトをコーディネートしたスタイルも提案されていた。
(アイテムの様子は右の写真の通り。画像をクリックすると拡大写真を表示します。)

取材を終えて

シャンデリアの様子
今シーズンのサトルタナカは、細身のシルエットと上質な素材使いが特徴である。ステッチやポケットの位置、バックシルエットの美しさ、パターンの切替位置やデザインとラインの美しさ等、細部に渡るデザインへの微妙な拘りと、シルクと麻が混じったような風合いを出す竹100%のバンブー生地や、ステンレスをコットン地に混ぜ織り込んだ生地等、品のある風合いが出せる新しい素材選びとが融合して、全体のショーを作り上げており、ショーの設備も含めてひと工夫ある点が印象に残った。尚、バンブー生地はシャツとレディースのトレンチコート、ステンレス・コットン混紡生地はカットソーにそれぞれ用いられているそうだ。
また、個人的に気になったのは、純銀を糸として織り込んだシルバーの生地は錆びないのか、という点である。これについて質問してみたところ、雨に濡れた場合等、取り扱いについてはシルクや皮革等を着用する時と同じで、なるべく気を付けて着用するという形で対応すれば、すぐに錆びてしまうということはない、とのこと。また、服を着用し年月を経て風合いが変化していくことについては、それも服の持つ味であり魅力であるという考えを持っているので、何十年も着用した後に錆びが生じてきたとしても、それもまたそのジャケットの風合いとして楽しんでもらえれば、とのこと。尚、シルバー生地はメンズのセットアップスーツとメンズ及びレディースのブルゾンに用いられているそうだ。
ちなみに、毎シーズン、コレクション音楽はオリジナルで、田中氏と与西泰博氏とのコラボレーションで制作しているのだそうだ。
ともあれ、王道的なロックテイストの中にもひと工夫入ったオリジナルなアイテムをお探しの方には、2006 S/S のサトルタナカをお薦めします。
(シャンデリアの様子は右の写真の通り。画像をクリックすると拡大写真を表示します。)