ファショコン通信

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iliann loeb 2008 S/S 展示会レポート

日時: 10月23日(火)~ 10月26日(金)
会場: エレガンテ・ヴィータ・ナコラ(Elegante Vita NACORA)
イリアンローヴは、もともとはニットのファクトリーであった企業が、デザインにも重点を置いていきたい、と考えてスタートしたというブランドであり、一見シンプルで優しげなアイテムに見えるものの、細部を注意深く観察すると独特の「粘り」と「根気」が伝わってくるという、実は職人気質で玄人好みのニットブランドである。特に、株式会社島精機製作所(Shima Seiki Mfg., Ltd.)が開発した「ホールガーメント(WHOLEGARMENT)」と呼ばれる、一着丸ごと機械上で立体的に編んでしまう手法によるニットアイテムを得意としているのが最大の特徴であるといえる。この技術により、袖にボリュームを出したり、前身頃と後身頃で前後差を出したりする等、ニットに布帛の要素を加味することが出来るようになったのだそうだ。
今季のイリアンローヴのテーマは「モンスーン(monsoon)」。エスニックやアジアンテイスト等、様々な異文化・異国情緒の要素をミックスすることで、深みのあるアイテムに仕上げることを意識したのだそうだ。
例えば、1枚目写真の、レーヨン45%・コットン40%・シルク15%の細番手混紡糸と特殊な手法でムラ染めしたリネン80%・コットン20%の糸を組み合わせた、イカット(インド・インドネシアの絣織物)をイメージしたネイビー X レモンのジャカード柄のストールは、細番手混紡糸の持つドレープ感と異国情緒溢れるジャカード柄が魅力的である(画像をみる)。そして、素材が上質であるが故に巻き心地も非常に良いのが印象的であった。また、シルクノイル(短繊維)を再利用したトップ染め再生シルク100%のダークブラウンのニットパンツは、糸と編地の相性により生み出される独特のドレープ感も大事にしたそうで、独特の落ち感とボリューム感がフェミニンな雰囲気を醸し出している。このパンツは裾をリボンで絞れるようになっており、これを取ると裾が大きく広がるようにデザインされているので、2通りのシルエットがあるという意味でも深みのあるアイテムであるといえる。尚、パンツと同素材でトップスも作られているのであるが(画像をみる)、このアイテムは、ホールガーメントによる独特の斜行感が特徴的で、これにより生まれるドレープ感が優雅なイメージを出している。斜行により上に上がっている裾部分にフリンジがあしらわれているのもユニークである。
2枚目写真の、経糸にレーヨン、横糸にリネンを用いたリネン70%・レーヨン30%の光沢のある平織生地を、ソフトなコットンにリネンを混紡したマットでナチュラルな風合いが特徴のコットン70%・リネン30%の生地で縁取るようにして構成されたブラックのジップアップジャケットは、ザックリとした平織生地の厚みと光沢感により、ややハードな印象も受ける一方、サラッとしたソフトな肌触りのコットン混紡生地で縁取られているので、全体的に深みのあるアイテムに仕上がっているのが特徴的である(画像をみる)。また、この2つの相反する印象の生地が、鮮明な継ぎ目により切り替えられているのが印象的であった。また、ビスコース75%・ナイロン25%のリネアピウ(Lineapiù)社製の細番手スラブ糸を使用したトップ染めのレモンクリームのティアードドレスは、編み出しに配色糸を入れて曲線から編み始めることでスカラップ柄が作り出されているが、この自然な曲線は、機械制御により立体的に編み出すことで始めて生まれるのだそうだ。個人的には、この複数のスカラップ柄と、細番手スラブ糸が生み出す生地自体の独特のムラ感、さらに薄く透け感とドレープ感のある生地の質とが相俟って、独特の深みとエレガンスが生まれているのが特に印象的であった(画像をみる)。尚、1枚目写真のライトグレーのタンクチュニックも、ドレスと同様の素材とディテールを用いたものである。
3枚目写真の、リネン100%のグレーのロングトレンチカーディガンは、リネン素材の持つ張り感を巧く利用してギャバトレンチコート風に仕上げたユニークなアイテムである。ポケット部分にボタン付きのリブのフラップをあしらったり、五分の袖を巻くり上げてボタンで留められるようになっているのもユニークであった。また、コットン88%・ナイロン11%のネオンイエローのミニドレスは、超細番手のコットンスラブ糸にナイロンを混ぜて強化した糸を用いた生地で作られており、この生地も2枚目写真のドレス等と同様、スラブ糸の生み出す独特のムラ感が特徴であるが、上記の生地よりもさらに薄く、ややドライで張りがあるように仕上げられていたのが印象的であった(画像をみる)。そして、これらに合わせられているのがコットン94%・ポリエステル6%のネイビーのレギンスであるが、これはハイツイストコットンのストレッチ糸を用いた生地で、ポリエステルを撚り合わせることでストレッチが効くようになっており、ホールガーメントの技術により柄のある透け間を生み出すと共に、継ぎ目を出さないことで、穿き心地も良くなるように仕上げられている(画像をみる)。
4枚目写真の、ボディにレーヨン50%・コットン50%、鈎針編み部分にレーヨン100%とシルク100%の糸を用いたオレンジの巻きスカートは、ボディ部分にドレープ感のある柔らかな生地と鈎針編み部分のコントラストが特徴的である。また、トップスに合わせられているのは、コットン100%のリネアピウ社製の超細番手糸を使用し、マーセライズ加工により密かな光沢感をも加味したホワイトのタンクトップで、胸元にあしらわれたウッドパーツとスカートの鈎針編みが相俟って、全体的にエスニックな雰囲気に仕上げられていた。
そして、個人的に特に強烈に印象付けられたのは、5枚目写真の、リネン50%・コットン50%のホワイトのスモックドレスである。イカットをイメージした透かし柄を、超細番手の糸を用いて18ゲージで積み重ねるという(画像をみる)、高い技術により表現されたこのドレスは、最も細いところでは糸の1本1本が判別できてしまうほど極めて繊細な飾り編みが施されており(画像をみる)、そのディテールと分量感が生み出す高級感が筆舌に尽くし難く、圧倒的な存在感を放っていた。デザイナー自身も、今回発表したアイテムの中でも、生地のイメージと出来上がったアイテムとが最もマッチしたアイテムの1つがこのドレスだったのだそうだ。尚、ウエスト部分に巻かれているのは、同素材で作られたブラックのニットヘアバンドである。
以上のように、キュートさとは裏腹に、徹底したディテールに対する拘りが特に印象的なのがこのブランドの最大の特徴であるといえよう。来年3月にはパリの合同展示会に参加する予定だそうで、「粘り」と「根気」が特徴であるこの手の玄人好みのブランドが、海外でどのような評価を受けるか、個人的にはとても楽しみになった展示会であった。













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